こんなところでヤルんですか? ⚪︎⚪︎×雅楽
どんな場所でも雅楽色に染めてやる! 私の演奏現場変歴
雅楽って、神社とかお寺、あるいはコンサートホールみたいなお上品な場所で観れるものってイメージないですか?
高貴で雅で、なんだかお淑やかというか、そんな印象だと思うんですが、
え? こんな場所でやるんかい!
ってこと、実はあるんですよ。
今回は私が経験した中からいくつかエピソードを紹介します。
その1 ミナミの繁華街で雅楽
雅楽の演奏形態の中で道楽(みちがく)という、行進しながら演奏するスタイルがあるんですよ。吹奏楽団みたいにピシッと整列して、ザクサク歩くわけじゃなく、「ぷわ~ん、チ~ラ~ロ~」とゆったりした音楽ですから、歩くテンポと演奏は当然合いません。
神社やお寺の行事で街中を練り歩く中で演奏しますので、道楽そのものは違和感なく観れるんですが、時と場合によって演奏者はとんでもない苦行を強いられるんです。
大阪の某神社の夏祭り。ミナミの街中を歩いたことが何度かあるんですが、真夏の昼間、しかもコンクリートジャングルの中、たしか3時間くらいだったと思いますけど、そりゃもうトンデモない暑さだったんですよ。
装束の中は襦袢つけていないといけない。炎天下の中の重ね着ですから、当然襦袢はツユだく。装束も汗が滲み出て変色するほど。
休憩所にたどり着くたびにビールを飲んでも全く酔わない。
なぜ我々はこんなことをしているのか(いや、神事に参加してるんだけど?)。
もはや演奏してるんだか、とりあえず音を出しているだけなのか。歩くほどに思考が停止する感覚。
今思えば、神事という名のパワハラじゃないかと誤った認識さえしてしまいそうなほど。
まぁ、それはそれはとんでもない経験でしたが、吉本新喜劇で有名なNGKとか、グリコの看板とかを見つつ、大阪ミナミを堪能できる楽しい祭でした。
ちなみに夜には船で川を往来する神事もありまして、船上で演奏しながら眺めたミナミの夜景は、また格別の美しさがあって印象に残ってますね。
その2 こんぴらさんの階段を吹きながら練り歩く
こんぴらさんの秋季例大祭の道楽に初めて参加させてもらった時のお話。
行ったことのある方なら想像できると思うんですけど、本殿まで行くのに結構な段数の階段となっていることで有名こんぴらさん。その階段を演奏しながら下ったり、登ったり。
本殿から御旅所まで約2kmを下る御神輿渡御。この神事は夜に行われますので、あの階段を、しかも暗い中を吹きながら下りるわけですから、所々で転げ落ちるんじゃないだろうかという恐怖との闘いでした。
翌日には本宮に神様をお返ししますので、今度はあの階段を登り切らねばばりません。二日目は切れ切れになる息、じょじょに現れる筋肉痛との闘いでした。
そんなハードな道楽ではありますが、本宮のお社におもどりになる神輿を拝しながら雅楽を演奏している時、なんとも言えない感動が押し寄せてくるんですよね。
今までの苦行を綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれるあの感動は、雅楽人ならぜひ体験してもらいたいですし、もちろん雅楽を知らない方も、人生に一度はこんぴらさんへとお参りいただき、感動のフィナーレを観ていただきたいものです。
その3 薄暗いバーで雅楽
まぁ、言うて前述の二つは神事ですから、お客様から観るには雅楽の似合う風景かと思います。
ここからは、なんでそうなったというシチュエーションです。
薄暗いバーみたいな所で演奏するお仕事に行った話。
その日私は舞人(踊る人)の配役で出演。
ただでさえ暗くて足元が見えにくいのに、面をつけていた私は、目を瞑って舞っているようなもの。
「舞台全部を使って広く舞いなさい」と指導を受けていた私は、師匠の言葉に従い、舞台から落ちそうな不安を感じつつも全力で舞を舞う。
途中、くるりと身体をまわし、舞台の角に立った瞬間、私の踵は舞台から外れていました。
「やべぇ! 落ちる…。」
全神経をつま先に集中させ、なんとか踏ん張りことなきを得ましたが、もしあの時、足を踏み外してたら大惨事だったと思います。
しかし、なんでそんな企画になったのか未だに思い出せません。
その4 ハロウィンパーティで雅楽
某企業の外国人向けイベントでのお仕事。
ハロウィンパーティと言っても、ホテルの広ーい会場で演奏するのかと思って現場に足を運ぶと、そこは完全にアウェーな空気であることをすぐに察知。
ホームパーティーかと思うほど狭い空間に大勢の外国人。ノリノリのパーティー会場に現れた会場内で最も地味であろう装束を着た3人組(笙、篳篥、龍笛)。
盛り上がる会場を横目に準備を進めつつ、こんな状況で聴いてもらえるのか?
とんでもない現場に来てしまった。不安しかない。
ところが、演奏が始まると意外にも皆さんの注目が集まり、演奏後は多くの方が楽器を見にこられ、日本文化って外国人受けがいいんだと実感したのでありました。
番外編 フェリーでラジオの公開収録
以前、兵庫県明石市と淡路島を結ぶ海上ルートとして「たこフェリー」なるものがあったのですが、終航を迎える関連イベントということで、たこフェリーの中でラジオの公開収録が行われることとなったのです。
番組の名は「ありがとう浜村淳です」
関西では知らない人はいない超有名なラジオ番組。
明石にまつわる源氏物語の話がしたいから生の雅楽演奏をつけてくれ。とのご本人のご希望から出演することになったわけです。
場所そのものは二度と演奏する機会のない会場(海上)だったわけですが、たこフェリーに集いし紳士淑女たちは、浜村淳様の話に酔いしれ、我々の雅楽にも熱心に耳を傾けてくださったのでした。
ちなみにこの現場は3人で出演したのですが、笙、篳篥、龍笛のほか楽琵琶、楽箏も持ち込み、音源だけ聴いていると7人ぐらいで演奏しているんじゃないかというアクロバティックな荒技を披露していたことは会場に来ていた人たちだけが知る事実であります。
おわりに
過酷な現場、予想外な現場で雅楽を体験することもあるんだということを知っていただけたかと思います。
そんな現場を何度か経験した上で感じることは、音が出だした瞬間からその場の空気が雅楽に切り替わり、染まっていくということ。
ここまで読んでくださった方の中で、雅楽聴いてみたいな、観てみたいなと思われたら、どんなアウェーな場所でも伺いますので、演奏依頼のメッセージを送っていただければと思います。



