古代音楽を未来へ再起動させた偉人、稀代の天才「芝祐靖」
雅楽 彩々、いにしえの音を現代へ、無から有へ新しい表現の挑戦
前回の記事で少し触れた芝祐靖氏。今回はこの方についてちょっとお話しさせてください。私の雅楽人生の中で切っても切れない特別な存在なんです。
直接ご指導を受けた間柄ではございませんが、昔から「芝先生」とお呼びしていたので、以下「芝先生」とさせていただきます。
雅楽界のカリスマ「芝祐靖」
私が芝先生の存在を知ったのは、今から30年以上前、高校生か大学生の頃。きっかけは忘れましたが、すごく龍笛が上手いこと、廃絶曲の復曲や、現代雅楽の作曲など、非常に多彩な方という印象でありました。
そんな(私にとって)雅楽界のカリスマ芝先生を初めて観るチャンスが訪れたのは1998年の伶楽舎の大阪公演でした。
たしか公演の1曲目だったかと思います。道楽(みちがく)と言って歩きながら演奏し、舞台中央まで入場するという演出で演奏者の方が入ってこられました。
その最初の出だしの龍笛の音。舞台には当然誰もいない。右を向いても、左を向いても、そして、後ろを向いてもいない。あれは本当に不思議でしたが、どの方角から音だ出ているのかわからないが、とにかくホール全体に龍笛の音が鳴り響き、演奏がスタートしたことは今でも強く印象に残っています。
当然ですが、最終的にはどこで吹き始めたのかはわかりましたが、その衝撃たるやすさまじいものでした。当時の演目は全く覚えてませんが、この時の記憶は今でも鮮明に覚えています。
後にどこかの記事で読んだのですが、芝先生はホールも楽器の一部と語っておられ、確かにあの時ホール全体がスピーカーのように鳴っていたのでした。
若い頃は先生が吹いておられる音源は片っ端から聞いていました。CDを買うこともありましたが、人から音源を借りてはカセットテープやMDにダビングしたりと、それらの音源は今でも手元に残しています。現在では、配信サービスやYouTubeにアップされた音源を時折聴いておりますが、いまだ色褪せることのない音色に酔いしれています。
ちょっと長いですが、芝先生の独奏をお聞きください。「蘇合香~序一帖~」のリンクを貼っておきます。
音源化された先生の音色は、生で聴くド迫力とは違い、繊細で軽やかな印象です。まるで龍笛を吹くことを常に楽しんでおられるのではないか? という印象です。
憧れのスター「芝祐靖」に突撃取材‼︎
そんな憧れの存在、芝先生に直接会う機会が一度だけありました。大学卒業後、とある月刊誌の編集部に所属していたのですが、ある月の特集記事で日本文化の魅力を若者に伝えるといった企画をすることになりました。チャンス到来、私はわがままを通し、雅楽の記事を掲載すべく芝先生にインタビューをお願いしたのでありました。
「芝でございます」電話越しに聞こえる先生の声、この一声で舞い上がったのは言うまでもありません。先生には快く取材許可をいただき、取材者である私とカメラマンの二人で東京へ向かうことになりました。
いざ、インタビュー開始。私が最初の質問をすると芝先生は延々と話をされるんです。数々の思い出を楽しそうに途切れることなく(笑)
今では懐かしいカセットテープを使った録音機材。これに最長の120分テープを入れていたのですが、1本だけで足りずに2本目に入れ替えたぐらいです。
しまいにはお稽古にこられた方が私たちの後ろで待機されるまでになり、さすがに申し訳なくなって、先生に最後の一言をお願いして強引に取材を締めたのでした。
インタビューで印象に残っていたこと。
一つ目は先生が宮内庁式部職楽部に楽生(正式職員になる前の修行期間)として入られた頃のエピソード。当時、第二次世界大戦後の混乱期であったため、授業を受けるたびに先生が変わっていたそうです。ところが、先生によって言うことが違う。何が本当なのか判らなくなった芝先生は、自分なりに咀嚼して今の吹き方にまとめていったそうです。この話は、私自身今でも奏法を考える上での基礎にさせてもらってます。いろんな先生方の吹き方の違いを見聞きしては、先生方の真似をしてみたり、あるいは共通する部分を探し出し、本当の音色とは何なのかを考えたりしています。
二つ目に印象に残っているのは、宗教と雅楽のお話。寺社仏閣などで雅楽を演奏することを奏楽(そうがく)と言いますが、芝先生は「腐った野菜や果物をお供えしないでしょ? 雅楽は音のお供え物ですから、常に良い演奏を心がけてほしいですね」と語ってくださいました。寺社仏閣など奏楽させていただく際にはいつも思い出してはこの精神を心掛けておりますし、私がご指導させていただいた方々にはいつもこの話をさせていただいています。
三つ目は、これは話の内容ではありませんが、話している時の芝先生の様子なんですけど、まるで少年のように目を輝かせて楽しそうにお話しされる姿がすごく印象に残っています。「これはオフレコにしてね」と言いながら、テーマとは関係ない話までされるんですよね(笑)ぶっちゃけ記事にしても誰も読まないよという内容でしたが、雅楽をしている私だけが嬉々として話を聞いていました。あ、今気がついた。あの瞬間、自分は取材者っていうのを忘れていたことを…。
そして伝説となった稀代の天才
そんな、とっても凄いけど、おちゃめな芝先生。残念ながら令和元年、御年83歳で旅立たれてしまいました。もう先生の音を生で聴くことはできないと思うと寂しくはありますが、私の脳裏からは一生離れることはないでしょう。芝先生のような同じ音は出せないですが(というか私は篳篥吹きなので楽器が違う)、先生の思想の一部でも後世に伝えること、これも私の使命の一つととらえてこれからも雅楽を続けていこうと思います。
芝祐靖先生の経歴についてもっと知りたいという方はWikipediaもどうぞ。



素晴らしい音色ですね。雑念が消えます。
いい音だなぁ……。今、龍笛を聴いて皆さんがパッと思い浮かべるのは、羽生結弦さんの「陰陽師」かもしれませんね。フィギュアスケート界もあれ以降、母国の伝統曲をプログラムにする選手が増えたように思います。